このページを今は亡き”みかん”に捧ぐ!
平成9年10月1日、観光地である岡山県倉敷市の地元では有名な観光スポット アイビースクェアにおいて一人の中年サラリーマンが 痩せこけた1匹の小さな野良猫に出会った。 サラリーマンは仕事でアイビースクェアを訪れた帰りであった。 サラリーマンが「チュッチュッ!」と呼ぶと、その猫は野良らしからぬ人懐っこさで、 サラリーマンの足元に頭を擦り付けてきた。 よく見るとアメショの雑種らしい。 頭を撫でていると、観光客らしい中年の夫婦が手に竹輪を持って近づいて来て、 竹輪をやりながら 「地元の方ですか?良かったらこの猫ちゃん飼ってやってもらえません。 可愛いんだけれど、私達が埼玉まで連れて帰るわけにもいかないので。」 もともと動物が大好きなこの男、家を新築して以来傷付けられるといけないからと 女房に禁止されていたが、えーい!家も大分古くなったし可愛い子猫だからと 「いいですよ、飼い猫でなければ連れて帰ります」 約束をしてしまった。 さっそく車に乗せ会社へ、ダンボール箱に入れ我が家へ。 「お土産、お土産」 「えー、わー可愛い。飼ってもいいけど、母屋に上げちゃあだめよ。」 「OK、納屋で飼うよ。」 なんて会話の後、早速牛乳とパンをやる。 名前を昔大好きだった漫画「みかん絵日記」から”みかん”とつけ、 出勤前また帰ってきてからと暇さえあれば一緒に遊んだ。 そのうち元々動物好きの女房も加わり、みかんもすぐに境遇に慣れ仕事をする女房の ひざの上で寝たりじゃれついたり、三人?で遊んでいた。 寒くなってくると女房の方からみかんを母屋に入れ、 ついには布団で一緒に眠るようになってきた。 正月も過ぎ、みかんはメス猫だったため、ナントナク雄を呼ぶような声で鳴きだした。 二人は「そろそろ避妊手術をしようか」と相談し、 犬(その時夫婦の家には他に2匹の雑種犬の親子がいた)を 予防注射に連れて行っていた昔ながらの動物病院(○○家畜医院)に相談した。 「予約をして下さい。」とのことで、女房は2月21日を予約した。 その日は土曜日でサラリーマンも会社が休みのため一緒に行けると考えたのでした。 当日朝、夫婦はみかんを連れてその病院へ出かけました。 夫は病院へ入る時、何となく嫌な予感がした。 しかし予約をしている手前帰るわけにもいかず、医者が出てくるのを待った。 医者は診察もせずみかんを手術台に上に乗せるように言った。 女房が乗せようとすると、珍しく暴れて女房の手にペケ印の引っかき傷をつけた。 医者が手足を持ち乗せた。 麻酔を注射。 夫婦は昼過ぎ来るように言われ病院から帰った。 昼過ぎ電話! 「まだ麻酔から覚めないので夕方来てください。」 夕方迎えに行くと、まだ麻酔からはっきり覚めてなく 腹に包帯を巻かれ横たわったままでした。 「暖かくして寝させていればそのうち覚めるでしょう。」 夫婦は自分たちの電気式毛布を敷きみかんを寝かせた。 その日は地元で最大のお祭り ”西大寺会陽 裸祭り”の日だったため、 花火の上がる音を聞きながら二人で一生懸命祈りながら看病した。 少し動くようになり二人は喜びで、 水を綿で飲ませたり身体をさすったり一睡もせずに夜を過ごした。 翌日お昼になっても少し動いては倒れるありさま。 様子がおかしいため病院に連絡すると 「連れてきてください。」とのこと。 急いで女房の車の後部座席に乗せ病院へ。 病院までは車で約10分弱。 病院まであと少しの所で可愛い声で「ニャー」と一声! あとで考えると、まるで「さよなら」か「ありがとう」とでも言ったように 思わず振り向くと、僅かに何かをモドシ息をしなくなった。 慌てて女房が抱き声をかけても反応なし。 車を止め夫が口から息を吹き込み心臓をマッサージしてもだめ。 急いで病院へ。 馬鹿医者は落ち着いて 「麻酔がまだ効いているからかな。」 「あほな事言うな!息してないだろうが!」 夫が怒鳴る。医者は聴診器を当てて 「もうだめですなー。遺体はこちらで処分しましょうか?」 「何でこんなところにおいて帰れるかー。とぼけるな。」 夫は殴りつけたい気持ちを押さえみかんを抱いて車へ、 女房はきっちり請求された金を払って車へ。 車に乗ったとたんに二人は涙を堪え切れず、 みかんを抱きしめながら泣いた。 女房が他の病院へ行ってみようと泣くのを、 「行きたい気持ちはあるけれどこのみかんを見たら無駄だろう。」 と説得し、涙で前が見えない中運転して家路に。 対向車から見たらこの二人はなんだろうと思われるくらい泣きながら。 家に帰り冷たくなってゆくみかんを撫でながら、 夫婦は思う存分泣いた。 そして近くの空き地、 田舎なので用水路のそばに使われてない空き地に 毛布に包んで埋葬した。 「連れて帰らなければよかった。避妊など考えなければよかった。 みかんは幸せだっただろうか?」 二人は布団に入っても涙ながらに語り合った。 「もう猫飼わないようにしようね。」 「可哀相だから。」 二人は誓った。 わずか5ヶ月足らずの間一緒に暮らした”みかん” その想い出は夫婦にとって一生忘れられないものとなった! もも物語へつづく |